収蔵品展
ミロ・シャガール収蔵版画展(10/5-9)
2017.10.03
当館が収蔵する版画より、ホアン・ミロ(Joan Miró, 1893-1983)の『ひとりごと』と、マルク・シャガール(Marc Chagall, 1887-1985)の『ポエム』を紹介します。
スペイン・カタロニアの風土に育まれたミロ、そしてベラルーシ(旧白ロシア)のヴィテブスクのユダヤ人街に生まれたシャガール。同時代に活躍した二人は、さまざまな版画技法を用いた多彩な表現によって、豊かな色彩と詩情あふれる世界を生み出しました。
ミロが版画に関心を持つようになったのは1930年前後で、ステンシルやモノクロームのリトグラフに取り組んでいます。1936年からのスペイン内戦時期はフランスに滞在、第二次世界大戦が勃発するとスペインに戻り、1944年にはモノクロームのリトグラフによる《バルセロナ・シリーズ》を完成させています。
1941年、ニューヨーク近代美術館での大回顧展により、国際的に評価されるようになったミロは、1947年のニューヨーク滞在中に旧知の版画家ウィリアム・ヘイターと再会し、トリスタン・ツァラの『反頭脳』のエッチングによる挿絵の制作のほか、アクアチントによる多色刷り版画などの実験にも取り組んでいきます。
1948年、ミロは8年ぶりにスペインからパリに戻り、フェルナン・ムルロの工房を拠点に、作品制作の多くをリトグラフの制作に費やしていきます。1950年には木版や彩色エッチング、1960年代末にはセメント、カーボランダム(炭化硅素)といった新しい素材を用いて自在な表現を試みていきます。
『ひとりごと(ひとり語る)Parler seul』は1945年に作られたトリスタン・ツァラの前衛的な詩と、ミロのオリジナル石版画からなる挿画本です。1948年から1950年にわたり、ムルロ版画工房において手刷りによって一点一点丁寧に制作され、1951年マーグ出版から253部限定で刊行されました。文字入りのページはミロがレイアウトし、ミロの想像力豊かなフォルムと奔放な線による版画と、活字印刷されたツァラの詩との対比が効果的です。
シャガールは生涯に2,000点もの版画を制作したといわれています。シャガールが最初に版画を制作したのは1922年、自伝『わが回想』を基にしたエッチングとドライポイントによる20点の作品です。また“色彩の画家”と称されるシャガールが最初に色彩を用いて制作した版画作品は、第二次世界大戦の亡命先アメリカで制作された『アラビアン・ナイト』(13点、1948年)です。1948年、フランスに帰国したシャガールは、南仏ヴァンスに移住。パリのムルロ版画工房でリトグラフによるポスターを制作したのをきっかけに、この工房で『ダフニスとクロエ』(42点、1961年)や『サーカス』(38点、1967年)を制作します。これらの連作は、多彩な色を用いたリトグラフによる版画としてシャガールの代表作となっています。
『ポエム』は、1968年、シャガールが81歳で制作した木版画集で、ラクリエール版画工房で刷られ、ジュネーヴの画商クラメールから238部限定で刊行されました。1909年から1965年にかけてシャガールが書いた31篇の詩に、24点の木版画が添えられています。鮮やかな色彩を用いながら、版の木目を活かし、また紙や布を用いたコラージュが施されるなど、シャガールの版画表現に対する意欲的な姿勢をうかがうことができます。登場するモチーフは、故郷ヴィテブスクやパリの街並み、恋人たち、愛妻ベラ、花束、道化師、そしてユダヤの経典など、身近な出来事から旧約聖書を示唆する詩に呼応するようイメージとなっています。
版画ならではのミロとシャガールの造形世界をお楽しみください。